もうすぐ夏休みに入ろうかという頃、一通のエアメールが届いた。
 差出人に心当たりはない。しかし受取人である斗樹は、その手紙を無視することはできなかった。
 入っていたのは良質な紙の封筒。よく結婚式などで使われるような封書だ。それだけで相手の格というものはよく分かる。そして、無視できない最大の理由が差出人の姓だった。
――オルブライト
 そう。父の生家。そして斗樹自身も持つ第二の姓。
 偽装かと思ったが、封蝋にもオルブライト家の紋章が入っている。本物に間違いはない。しかし、永らく『オルブライト家』とは縁遠くなっていた自分に何故、手紙が届くのか。ましてや、父ヴァージルではなく、名も知らぬ人から。
 白封書のなかには、会合への招待状と英国への片道切符。
 半信半疑で父に連絡を取れば、やはりヴァージルの与り知らぬことらしい。
『無理をして来る必要はないんだぞ。大方、あのジジイどもの嫌がらせだろう』
 ヴァージルが「ジジイども」と読んでいるのは、分家筋の重役たちのことだ。
「……うん、でもいつまでも出ないって言うわけにもいかないでしょ。今回行かなくても、また送られてくるんだったら一度顔を見せるよ」
『……トキ』
「大丈夫。もう高1だよ。それにいざとなれば、朱砂もいるし」
 ちらりと斗樹は背後に視線を向ける。その先には赤毛の女性がニッコリと立っていた。
 朱砂。斗樹が契約を交わした使鬼だ。
『わかった。来る時は気をつけて』
「うん、じゃあ」
 ピッ、と。情緒のない電子音と共に通話は途切れる。そうして再び、斗樹は招待状を見つめる。
 ただの呼び出しでないことは斗樹自身も理解している。だからこそ、あえて、と思った。



 これより訪れる、イカれた運命など、まだ誰も知らない。