『永代区』の港に一艘の船が接岸した。
貨物船としてはやや小型だ。甲板に積まれた貨物はさほど多くはない。降ろされたいくつかの小型の木箱を詰んだトラックが発車する。
降ろされた荷物はすべて正方形、もしくは人一人で運べるほど小型なものばかり。リークされた情報とは合致しない。では、件の荷物は?
と考えていれば、白衣姿や警備ロボらしいものが心なしか増えている。荷物の明け渡し手続き担当者も変わっていた。
そのまま様子を伺っていれば、今度はクレーンが起動を始めた。重厚なフックが向かう先、そこには貨物網に包まれた横長の木箱が四つ。寸法からしても情報と合致する。
――あれか
遠方から様子を伺っていた男は狙いを定めた。
当初は荷物を運び出す手筈ではあったが、遠目とはいえ実物を見ればそれも難しい。仲間が準備しているだろうトラックが計画通り着いたとしても、荷台へ積み込むのに時間がかかることは明白だ。その間に退路を絶たれたら万事休すだ。
といっても、必ずしも運び出すことが絶対ではない。状況変化に合わせて計画内容は柔軟に切り替わる。『困難』と判断すれば、その場で破壊するか、即座に海へ投げ落とすかが一番効率が良い。重い荷物は、足手まといでしかないからだ。
おそらく中身は精密機械と、男はふんでいる。わざわざ遠い異国『トメニア帝国』から取り寄せているのだ。妖怪との折り合いで、機械製品があまり発達していないこの国ではたかが知れている。その点、『トメニア帝国』の科学技術は飛躍しているという。
ゆえに機械にとって大敵である海水もまた、有益なのだ。
そうこうしているうちに、クレーンが貨物網を釣り上げる。ゆっくりと、確実に揚場へと向かっていた。
男はゆらりと立ち上がる。左手を高々と放り上げた。
突然の爆発音と辺り一帯を包む烟に、揚場は騒然となった。
トメニアから「とある品」を密輸する計画がたってから、襲撃を受けていたことは『過激派』の研究員たちには周知されていた。
だから念入りに警備を敷いたはずが、いつの間にか奥にまで入られていたことに慄いているのだ。
烟はなかなか晴れず、その場にいた多くの者は咳き込んでいる。
同時に、遠い各所でも爆発音が響き始めている。どうやら全面的に動き出したようだ。
地上にいた誰かが声を上げた。
指差す先にあるのは、宙吊りとなったままの「荷物」。その上に――
逆光の中の人影。その手には鈍い光をかえす漆黒の刀。外套の裾が潮風に煽られ、軍帽を深くかぶっているため顔は伺えない。
下の者達は「どうやって」とか「いつの間に」とか、無駄なことを考えているのだろう。
そう、「無駄」なのだ。その思考は「無駄」でしかない。
「踊れ、影灯籠」
黒光りの輝きが美しい弧を描いた。
地上は混戦となっていた。
男――四家井縹は年代物の懐中時計の蓋を開く。
時刻は二時を過ぎている。迎えのトラックは、遅れているのかまだ姿が見えない。