ノイズ混じりのラジオからは、淡々と状況を伝えるアナウンサーの声が聞こてくる。
「なーんかずいぶん楽しそうな感じだね、デモ」
 けたけたと笑いながら、壱架がラジオの音に耳を傾けている。ノイズのせいか所々で音が途切れるが、断片的な情報からはそれほど深刻な状況でないことはわかった。
「ねー? 縹ぁー、せっかくだから見に行かない?」
 その声色は楽しげだ。先祖由来の血ゆえか、こういった乱闘騒ぎは心躍るらしい。
「バカを言うな」
 壱架がわずかに背を反らせ、背後から覗きこんできた。太陽の光に照らされ青白く輝く髪を穏やかな風が撫で、縹は気だるけな表情を浮かべた。そのまま振り返ることなく壱架の案を一蹴する。
「そのデモに軍のお偉いさんがはまってるとかで、上層部が騒いでるんだ。オレたちは別命あるまで待機、そういう命令だったろ」
「そりゃそうなんだけどさー。待ってるだけっていうのも、こう……暇? なんだよねー」
「始末書を書く覚悟があるんなら、一人で行って来い芙宮」
「えー。縹のいけずー」
 口をとがらせ、全身で暇だとアピールする壱架を縹は一瞥する。
 その間も、ラジオはノイズを混じらせながら淡々と言葉を紡いでいた。
「……『芙宮』はどうなんだよ」
「ん?」
 だらりと寝っ転がり、ラジオに耳を傾けていた壱架が面を上げる。縹はそちらには振り返らず、気を紛らわせるように煙草に火をつけた。
「神族も一人絡んでるって話らしいだろ、そのデモ。『芙宮』家は動かなくていいのか?」
「ああ、それね……」
 壱架の家――芙宮家は代々朝廷すなわち神族に仕えてきた武家貴族だ。仮に神族が今回のデモに関わっているというなら、芙宮家は動くはずだ。しかし、そんな話はとんと小耳に挟まない。
「『芙宮』は動かない(・・・・)。お祖父様がそう判断された。命に関わるような状況じゃないみたいだから静観するってさ」
「なら、お前もおとなしくしてることだな」
「縹のおにー」
「鬼で結構」
 背後で喚く壱架を無視し、縹は煙草の煙を吐く。白い煙がふわりと舞い、風に煽られてすぐに霧散した。
 頭上を見上げれば晴々しい青空。そんな空の下で、淡々とラジオの音が鳴り響いていた。

30 Jun. 2014